走向傾斜の測り方

概要

地質調査を行なう上で最も基本的な事項に位置付けられるもののひとつに『フィールドワーク』がある。これは土木系?では堅苦しく『地表踏査』と言う。 文字通り地表を自らの『足』を使って歩き、地表で確認できる地学現象を調べていくことである。 その対象は、地形図にみられないような微地形であり、地表で観察される地質であり、あるいは湧泉(湧水のみられる箇所)であったりとその目的によりさまざまである。

地質学を専門とする技術者の多くは広い視野で調査目的箇所とその周辺の地質を捉えようとする。 そして、地層が露出している箇所(露頭)を探し、そしてわずかに露出した部分からより多くの情報を集め細かく記載していく。 それは、岩石の種類や割れ目の状態、硬さや風化の程度、周囲との連続性、etc....と目的によりさまざまである。

以下にフィールドワークの中で最も基本的な技能である『走向傾斜を測る』ことを簡単に紹介する。

面構造と線構造(リニエーション)

面構造

面構造と言われるものには結晶面のように微細なものから層理面や断層面のように野外で観察できるもの、変成岩にみられる片理や堆積岩中のラミナなどがある。 ここでは、地層面や断層面など野外で観察し測定されうるものについて述べる。 地層や断層などの傾斜した面と水平面との交線の延びていく方向を『走向』といい、それに直交する方向は最大傾斜を示し、その面の『傾斜』と呼ぶ。 この二つの要素を測定、記録することが面構造の走向傾斜を測ることである。

線構造(リニエーション)

地層や岩石の中の条線や断層鏡肌など二次元的な構造である。 ときにはこの二次元的な構造が平行配列し、三次元的な構造をつくることもある。 線構造の方向を線方向という。

クリノメーター

これら面構造や線構造はクリノメーターなどで測定できる。 写真に一般的なクリノメーターおよびクリノコンパスを示すが、これらは磁針と水準器、傾斜を測定するための振り子より構成されており、外側の目盛は方位を測定する時に使われ、内側の目盛は傾斜を測定する時に使われる。 普通のコンパスと違うのは、方位の目盛のEとWが逆になっている点でクリノメーターの長辺の向かう方位が目盛で直接読めるように工夫されたものである。

図4.14 クリノメーター

クリノメーター

クリノメーター(1:磁針 2:目盛(方位) 3:目盛(傾斜) 4:傾斜測定用の振り子 5:水準器)

図4.15 クリノコンパス(こちらは簡単な測量程度ならできる。)

クリノコンパス(こちらは簡単な測量程度ならできる。)

測定

面構造

表4.1 面構造の測定法

図1-a:走向の測定方法
図1-b:クリノメーターの読み
図1-aでは、クリノメーターの長辺を地層に密着させ、走向を測定する。 このとき、水準器が水平になるように、長辺を地層面に密着させなくてはならない。 図1-bはこのときのクリノメーターの磁針の様子である。 磁針はNから60°Wへ寄ったところを指し示している。 これをNを基準にN60°W(あるいはSを基準にS60°Eでもよい)と記録する。
図2-a:傾斜方向の測定方法
図2-b:クリノメーターの読み
図2-aのようにクリノメーターの長辺を傾斜方向に向け傾斜方位を読む。 この場合の傾斜方向は図2-bに示すようにSW方向である。
図3-a:傾斜の測定方法
図3-b:クリノメーターの読み
傾斜の測定方法を図3-aに示す。 今度はクリノメーターを立てて長辺が傾斜方向を向くように密着させ、クリノメーターの目盛のところの振り子の指し示す角度を内側の目盛を使って傾斜を読む。 この例では傾斜は30°である。 こうして測定された走向傾斜は、N60°W30°SW(あるいは簡単にN60W30S)などと表記する。

線構造

表4.2 線構造の測定法

図4-a:線構造の走向方向の測定走向板を利用する
図4-b:クリノメーターの読み
線構造上に垂直に補助板を立て、それにクリノメータの長辺を密着させ、なおかつ磁針が抵抗なく動くよう長辺を密着させたまま水平にし、線構造の延び方向(線方向)を読む。 傾斜方向(下がっていく方向)は磁針のN極が指す向き、すなわちS50Eとなる。 クリノメーターの向きということであればN50WとS50Eは同義であるが、前者では傾斜方向をまた別に記録する必要があるので、一般にはクリノメーターの頭を傾斜方向に向けて磁針のN極が指す向きを読む。
図5-a:線構造の傾斜の測定走向板を利用する
図5-b:クリノメーターの読み
補助板の角辺が平行であれば補助板の上で傾斜は測定できる。 測定方法は面構造の場合とおなじで、長辺を図のようにあて振り子で角度を読む。 記録は先に測定した線方向とともにS50°E(25°)のように記録する。 N50W25Sというように走向傾斜と同じ記載方法でも表現が可能である。 この場合最後のSが傾斜方向を表す。

結果の整理

図4.16 走向傾斜の表現法

走向傾斜の表現法


野帳やルートマップ上にはこの図のように記載する。 結果の整理は目的によりさまざまであるが、ステレオネット(シュミットネットやウルフネット)を使っての統計的解析、断層の応力解析、褶曲構造の解析あるいは、堆積面に残された線構造の「堆積時の方位」を再現すること、また走向傾斜をもとに地質図を完成するなど幅広く応用できる。

inserted by FC2 system