第4章 地質図学

目次

地質図の作成(その1)
地質図とは
ルートマップ
地質図学の基礎
地質図の例
地質断面図の作り方
見掛けの傾斜を求める
単斜構造の場合
褶曲構造 - バスク法による地質断面図
褶曲構造 - 三井法による地質断面図
褶曲構造 - キンク法による地質断面図
貫入岩その他を含む地質断面図
走向傾斜の測り方
概要
面構造と線構造(リニエーション)
クリノメーター
測定
結果の整理
ステレオ投影法(シュミットネットによる割れ目系解析)

地質図の作成(その1)

地質図とは

水利地質図など目的に特化したものもあるが、一般には地質の分布を地形図上に表現したものをいい、ある地域にみられる岩石の種類や、鉱山の分布、断層その他の地質構造を表現している。 広域なものは同種の地質であっても、年代など生成時期の違いなどで細かく区分けして表現している。 ごく限られたせまい範囲であれば、岩種などで区分けしていることもある。

図4.1 地質図(島根県東部上講武地域)新宮(1995)より

地質図(島根県東部上講武地域)新宮(1995)より

島根県東部の上講武地域の地質図である。 この地域は新第三紀中新世の酸性凝灰岩類や頁岩が分布しているが、その中に細長く閃緑ヒン岩が貫入している。

ルートマップ

地質調査をする上で最も重要な作業のひとつは現地調査(フィールドワーク)である。 地形図やコンパス(クリノメータ)をもち現地へ赴いて実際に土をほり、ハンマーで岩石を叩いて地質の分布を調べる。 しかし、当然のことに地表全面を全部みることは不可能である。 つまりそれは実際に歩いたルートである。 一般にはこの歩くルートは地質情報がより効率的に集められるところ、言い替えれば沢や林道などのように岩石が直接地表に露出しているところ(露頭という)が多く、なおかつ地形図上で自分のいる位置を特定しやすいルートが最適である。

そういうルートを歩いた軌跡は地形図上で線として表されるわけだが、この線に沿って得られた地質情報を丹念に記録していく。 調べる目的により記録することはさまざまであるが、一般にはみられた岩石の種類や特徴、地層の走向傾斜(地層の傾斜している方向と延びゆく方向)、断層、不整合、褶曲などの情報などであるが、例えば水源開発のための地質調査であれば湧泉の位置やその水の種類(裂か水なのか、伏流水なのか等々)、水温、電気伝導度などを調べ記録する。 このようにして地形図上に情報が書き込まれていく。

ところが、ただやみくもに調べるだけでは効率がよいとはいえない。 歩きながら少しずつ頭の中で情報を整理して、わからない点や、不足している情報を見出し、それを得るにはどうしたらよいか、次のルートをどう選べばよいかを考える。 また、同じルートを通って引き返すのではなく、ぐるっと回って帰ってくるような効率のよいルートを計画するとよい。

図4.2 ルートマップ

ルートマップ


調査が順調にすすむと、手持ちの地形図の範囲の外に出てしまうことがある。 このようなときには、コンパスと「足」が役にたつ。 方眼紙やあるいは方眼目盛のついた野帳(フィールドノート)があればなおよいが、ない場合はどんな紙でもよい。 自分の歩く方位をコンパスで測り、自分の歩いた距離は歩測で測り記録する。 自分の一歩の歩幅が約何センチなのか、それは平地と山地ではどのくらい違うのかなどは普段から知っておくとよい。 また、日頃の訓練として、歩きながら歩数を数えるようにしておくとよい。 そして途中何か地物があればあとで位置を補正する重要な目印となるので、それも書き込んでおく。 こうして地図のない場所の調査も可能になる。

以上ルートマップについて書いてきたが、露頭でなくとも参考にできる情報はある。 例えば転石である。転石の種類と位置を記録しておけば、背後地に分布する地質を知る手がかりになる。島根県西部でかつてアンモナイトが発見された際、そのきっかけになったのはほかならない化石のついた転石だったのだ。 私が、数年前にバラ輝石の露頭を発見したのもバラ輝石の転石を発見したからだった。 このように、転石といえども重要な情報源である。

地質図学の基礎

フィールドで得られた情報をどのようにして地形図上に再現するか、ルートマップの情報をもとにあるエリア全体の地質図を描くにはどうしたらよいかということがわからなければ地質図は描けない。 もちろん適当に線をひいてもそれはそれらしく見えるが、やはりきちんとした基礎は必要である。 地質図学と呼ばれる手法がある。 こればかりでも一冊の本があるくらいだから、ここでは述べ切れないほどのないようであるが、ごく基本的な部分だけ紹介しよう。

まず何よりも大切なのは岩石の種類によってそれがどのような産状のものなのかを知っておくことである。 つまり、砂岩は一般にどのような形態であるのか、花崗岩はどうであるか?そういうことを知っていないと描きはじめることができない。

たとえば砂岩であれば、それはある程度大きな広がりをもった板状の「地層」であろう。 であれば、地表で砂岩がみられたなら、それはその地点を通り、板状に広がりをもった分布をしているにちがいない。

図4.3 模式図(砂岩がゆるやかな傾斜で分布するときこういうふうに見える)

模式図(砂岩がゆるやかな傾斜で分布するときこういうふうに見える)

この図をみながらよく考えてみてもらいたいが、地層が地表とぶつかるところがそれが「露頭」にほかならない。 したがって、露頭の位置と地層の傾きと走向方向(傾きの方位と90度ずれた方位)がわかれば地質図を描くことができるわけである。 まず、地形図上に地層の等高線を描く。一定の走向傾斜をもった地層を仮定するとそれを描くのは容易である。 この等高線と地形等高線が同じ高さで交わるところに地層が露出することとなる。 仮に地層が一枚の薄い板であったとし、次図のようにある一箇所の露頭でそれを確認したとすると、その点を基準に地層の走向傾斜にあわせた地層の等高線を描くことができる。 そして、その等高線と地形等高線と「同じ高さ」で交わる点を連ねていくと、地質図を描くことができる。

図4.4 最も簡単で基本的な地質図の作図

最も簡単で基本的な地質図の作図

地質図の例

実際の例を示す。まず最初はルートマップの例である。 花崗岩地帯での水源調査のためのルートマップであり、岩脈の分布を詳細に記録したものである。 図中の濃い赤は花崗岩の露頭、濃い緑は岩脈である。

[ルートマップの例]

次の例は新第三紀の堆積岩の分布地の地質図である。 ルートマップをもとに地質図を作成する過程の図である。 濃い茶は砂岩、緑は凝灰岩である。補助的に描かれている地層境界の等高線は直線ではなく、弧を描いている。 また、地層境界の等高線の間隔も場所により異なる。 実際の地層は走向方向も変化し、傾斜角度も変化する。 作図の際には走向方向の変化や、傾斜角度(層厚)の変化も考慮しなければならない。

[地質図の例]

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